あの日の海

盛夏には少し早過ぎる頃、友人Oの故郷近くの海へ行ったことがあった。
地元でも知る者のほとんどいないらしいその海辺に、私は一番大切な彼女をOにまかせてその場を離れた。それはなぜだったろう。あやふやにみえた愛情に苛立って彼女を相変わらず試そうとしたのか、それとも少しばかりの孤独に彼女の存在を逆に確かめる為だったのか。
1時間か2時間離れたその空白の内に気が付いたのは、結局、大人げない自分の不恰好さだけだった。

その彼女がいつか言ってくれた事がある。

「あなたの中にわたししかはまらん穴が空いとって、それがわたしのカタチなんだ」と――。

あの日、私には穴が空いていたんだ。