「島に、渡りませんか……」

ひどい女にふられたばかりのYが不意にそう言ったのは、知多半島の突端近くだ。
そこはほんの小さな島だから、歩けばすぐに反対側の海っ端に出る。けれど初めから目的はないのだ。自分達は焼けた堤防に腰を下ろして海を見た。
潮の匂いが強い。目の前に夏があって、夏の海というものがこんなにも明るい。やがて、Yは噛んでいたガムを思い切った風に海へ飛ばす。それは一旦空中へ僅かに上がってから案外鋭い放物線を描いて、ぽちゃんと海面に落ちた。

「これで、吹っ切れましたよ――」

チューインガムにやるせない気持ちを閉じ込めて捨てたY。理不尽な別れは、眩しくきらめく波間にちょっとの間ちらちらと輝いてから、水底へ落ちて消えた。

あの日、真夏の堤防に座るYの後ろ姿はなかなか絵になっている様に見えた。




あの夏のY