海へ下りる道

日本海の絶壁の上にあるキャンプ場。ひとしきり夕食の準備を終えて海を見晴るかす矩形の展望台の手摺に腰掛ける頃、馬鹿みたいに飛んでいる蜻蛉の薄い羽に夕暮れがだいだい色に透き通っていた。

次の朝になって「K集落の浜に行こう」と、誰かが言った。
一方は苦労して持参したボートを膨らませ海岸線づたいにそこを目指し、自分ともう一人は県道沿いを歩いて目指す。
断崖の県道から海へと下りる道――。そこから海上にあいつ等の姿はまだ見えない。よし、俺達の勝ちだな。まさかボートに括り付けたスイカは落としちゃいないだろうな?


未来にもう二度とは来ない日々と、そうわかっていたあの頃。
そんなあの頃を思い出していると、急にあのK集落へ下る道の、夏の一光景が無性に描きたくなった。